神七とは、横浜北仲マルシェに現れるアイドルグループ・・・ではなく、神奈川の農家七軒から始まった農家コミュニティのこと。従来通り、市場を通した流通だけではなく、収穫した野菜を飲食店や消費者へと直接届けるルートを積極的に開拓するなど、新しい取り組みが注目されています。午前中のうちに売り切れ続出の大人気野菜を届ける、メンバー3人の畑にお邪魔しました。
平本ファーム
まずは神七のリーダー、
平本ファームの平本さんの畑へ。
育てているのはトマトやなす、ピーマン、ズッキーニ、カボチャ。
スーパーにある普通の野菜?と思うことなかれ。平本ファームはその種類がとても豊富なんです。
UFOズッキーニ、グリーンパンツ、レモンキュウリ、白ゴーヤ...etc。
あなたの野菜の世界が広がります。
おもしろい!食べてみたい!
目でも楽しめる野菜を直接届ける
珍しい野菜ばかりですね!年間130〜140もの品種を育てているそうですが、昔からこんなにたくさんの品種を育てていたんですか?
元々はもっと少ない品種の野菜を、まとまった数生産して市場に卸す、一般的な農家のスタイルでした。
でも、市場を通すと頑張って育てた野菜の価値が全て相場で決められてしまうんですよ。
手間暇かけて美味しく育てたキャベツと、楽に大量生産できる方法で育てたキャベツが同じ値段になる。そんなの嫌だなぁ、と思い、直接卸せるお店を探していきました。
緑のパンツをはいているようなズッキーニ、グリーンパンツ。
今では市場出荷と直接取引の割合はどれくらいなんですか?
今は市場出荷は0ですね。
神奈川県内の飲食店やマルシェで、購入者と直接やりとりができるから、どんな野菜が人気があるのかもわかるし、無駄がないんですよ。今は区画を細かく分けて、多品種を比較的少量ずつ生産しています。
消費者の方の知識がどんどん増えているから、珍しい野菜もよく売れるようになりました。
少し前までは花ズッキーニなんてマルシェに持っていっても、どう調理したらいいのかわからないって言われていたけど、今ではすぐ売り切れちゃいます。
円盤型の実がかわいいUFOズッキーニ。実が大きくなる前に収穫して、花ズッキーニとして出荷する。
本当だ、花がついてる!
最初はどうやって食べたらいいかわからなそうですね。
レストランでは、花の部分に具を包んで揚げたりするみたいですよ。
そういうところから目にする人が増えていって、馴染んできたんでしょうね。
長いズッキーニは輪切りにしますけど、これは形をまるごと活かせるので、食卓が華やかになりそうですね。
包むのが手間なときはそのままお味噌汁に入れても、花が出汁を吸ってジューシーに。
神七の発端は飲み会だった。
神奈川の農家を盛り上げるためブランド化を
馴染みのある野菜でも、こんなに品種が分かれているんですね。
どうやって情報収拾されているんですか?
うちはかぼちゃだけでも9種類あります。ネットで調べたり、種屋さんからのカタログを見たり・・・。
試しに育ててみて、できたらレストランに直接持っていってみるんですよ。そこでもまたこういうの欲しいなって教えてもらったりしてね。
3色のなすたち。一つ一つの野菜に個性を感じます。
神七の農家さんたちは、どこも珍しい野菜を育てているんですか?
そんなことないですよ。もっとオーソドックスな品種を多く育てているところもありますし、市場にも出荷している農家さんもいます。
ただ、今までのように流通経路を市場だけに頼っていてはいけないな、という課題意識をみんなが持っていましたね。
みんなで農家の仕組みを変えていこう!という思いで集まったのが神七だったんですね。
きっかけは、ただの飲み会だったんですけどね(笑)
僕が招集をかけたわけではなく、たまたま同じタイミングで、市場の仕組みに違和感をもった人たちが集まった。
みんなすでに行動は始めていたんだけど、いろんな人の知恵が集まった方がいいものができるし、一つのブランド名で活動をしたほうが目に留まりやすいから、「神七」という名前でマルシェにも出させてもらっています。
採れたてのきゅうりは棘が痛いくらいに強い。出荷の過程でほとんど取れてしまうそう。
そこからラー油や、肉まんといった、生産加工まで自分たちで手がけた製品が生まれてきたんですね。
加工品はもっと増やしていきたいですね。
野菜だけでも農家ごとに個性があるし、生産者さんのキャラクターも様々だから、マルシェではそんなところも楽しんでもらいたいです。
田澤農園
続いて向かった田澤さんの畑は、住宅地のど真ん中にあります。
畑の前に続く道は紫陽花ロードと呼ばれていて、取材の日は浴衣で散策を楽しむ人たちも。
昔から通勤、通学の道にもなっているため、地域からも親しまれているようです。
はい、オイスターリーフです。多分、横浜ではうちだけなんじゃないかな。
丸くて小さな葉っぱがかわいいオイスターリーフ。
平本ファームさんほどではないですが、うちの畑も僕の代から少しずつ品種を増やすようになりました。
塩味のする葉っぱの、アイスプラントも人気ですね。どちらもサラダに乗せて召し上がる方が多いようです。
うちはもともとキャベツ農家だったんですよ。
甘くて大きいのが特徴なんですけど、市場に出荷するためのケースに入れるには大きすぎて・・・。
でも小さくするには甘さも落ちてしまう。出荷用に味を落とすのは嫌だったので、飲食店やスーパーに直接卸すようにしてから、少しずつですが品種を増やすようになりました。
大きなキャベツがゴロゴロ。住宅地の中にある風景が新鮮です。
7、80種くらいかなぁ。トマトだけでも9種類あります。
茄子は、ゼブラ茄子という模様が面白い品種を育てているんですが、一般家庭だとこの模様をどう活かしたらいいのか、悩む方も多いみたいですね。
名前の通り、しましま模様のゼブラなす
縦に切って田楽とか、オーブン焼きにしても皮目がきれいで、美味しいですよ。
田澤さんは神七としてどのような活動をしているんですか?
神七では月に一度の定例会をしています。飲んでるだけじゃないの?って言われるんですけど(笑)
ちゃんと会議室を借りて新しい販売方法の話とかをしています。でも実は決められた活動は特にない、というのが神七のいいところなのかなと。
僕も以前から地域の小学校の食育プログラムに参加して、子どもたちと大根を育てています。
他の農家さんもそれぞれ独自で活動ができる、自立性がある組織なんですよね。
むしろ、その自由さがなければ農作業との両立は難しいと思います。それぞれが畑を守った上で、興味がある活動をする。その際に「神七」という名前を使うことで、ブランドが広まっていくイメージです。
神七のTシャツを着てきてくださいました。
本来の農家の仕事への負担がないというのは、嬉しいですね。
僕も品種よりも、それを作る人がブランドになっていくべきだといつも感じているんです。
同じ品種でも、土との相性や育て方次第で全く違う味になりますから。
神奈川の農家さんが頑張っているね、と認めてもらいたいんです。
だから、まずは農家さん一件一件の個性や味を伝えていきたい。
そのときに「神七」というチーム名があることで、覚えてもらいやすかったり、広まりやすくなったりするというメリットが生まれたらいいなと思っています。
苅部農園
最後は、タケノコを掘り続けて40年という苅部弥生さん。
晴れた日にはスカイツリーまで見通せる高台に畑を構えています。
最初は男性メンバーだけから始まった神七のなかで、女性ならではの視点が期待されています。
苅部さんは神七の中でも少し異色の経歴をお持ちなんですよね。
元々、農家といっても祖父が自分たちで食べる分を育てるくらい。残りを道で引き売りするほどの規模でした。
継ぐ気もなかったので、大学を卒業してから証券会社に就職しました。
祖父がなくなったとき、この畑がなくなるのはさみしいなぁと思ったんですよね。
子どもの頃、祖父が育てたゴーヤを食べたとき、苦味がすごく爽やかで外で食べるゴーヤと全く違ったんですよ。
うちの農家ってすごいんじゃない?ってそのときからずっとどこかで思ってましたね。
2年間、千葉の大学の園芸科に通いました。それから徐々に種目を増やして、今ではたけのこ、とうもろこし、枝豆、ズッキーニ、きゅうり、水ナスなど年間で60〜80種目くらいかな。
収穫の時を待つ様々な野菜たち。
たけのこ!
うちは粘土土だから、たけのこがなかなか背を伸ばせないんだけど、その分ゆっくり旨味を凝縮させながら大きくなるんですよ。
そう。子どもの頃からたけのこ掘りを手伝ってきてたから、タケノコを見つけるのだけは私の特技。
たけのこが土から頭を出す4月くらいからが神奈川県では出荷のピークだけど、うちは12月。
横浜で一番最初にたけのこを掘る農家っていうのが自慢です。
目に涼やかな竹林。冬にたけのこが売られていたら、生産者の名前をチェックしたくなる。
それは企業秘密、なんて(笑)
足元の感覚ですね。こればっかりは経験としか言いようがないけど。
神七は農家界のEXILE?
おいしいもの好きがルートの開拓につながる
神七では独自の出荷ルートを持つ農家さんも多いですが、苅部さんはどのように卸先を見つけていったのでしょうか?
おいしいお店に行くのが大好きだから、私が好きなレストランさんに自分で声をかけていきました。
市場出荷は一度もしたことがないですね。そのなかで同じ卸先の農家さんが先に神七に入っていたこともあり、誘ってもらったんです。
神七というグループがあることは元々知っていたんですか?
農家の間では、EXILEみたいな存在だったんです。
神奈川の農家のなかでも目立った存在で、そこに私なんかが入っていいのかしらって戸惑いました。
EXILE(笑)
今はそのメンバーの一員ですが、イベントの運営時には社会人経験を生かすシーンもあるのでは?
そうですね。領収書とかお釣りを用意してあげたほうがいいよ、とか小さなことですが、意外と思いつかない部分のようで、そうした意見を取り入れていただいてます。
苅部さんの爪には鮮やかなジェルネイル!農家の悩み、爪割れを防いでくれるので、農業女子におすすめなのだそう。
横浜北仲マルシェには神七のチームとして出店されてますが、どんな雰囲気なんですか?
横浜北仲マルシェでは毎回「神七」の新鮮な野菜が並んでいます。
多分ね、私たちが一番マルシェを楽しんでると思う。
普段は畑を空けられないから、マルシェの日は私たちも堂々と休める日なんですよね(笑)。
キッチンカーも大好きだから、みんなお気に入りのお店に行くのを楽しみにしてます。私は絶対に1日2回クレープを食べます!
そう、前月のマルシェでの売り上げがお小遣いなの(笑)
それを次の月のマルシェで使い切っちゃうくらい。
やっぱり直接お客さんと話せる場は楽しくて、みんないつもよりテンションが高いですよ。
横浜野菜をどこで買えるのかわからない人も多いから、知ってもらう場にもなるしね。
一時は絶滅したかと思われた杉田梅。小田原で見つかった株を譲り受け、育てている。
神七のグッズをつくりたいですね。
大きい野菜を持ってかえるときにもショップバッグがあったら便利だろうし、個人的にはホウキモロコシ(イネ科の植物)のほうきとか作ってみたいんですよね。
神七をきっかけに、神奈川の野菜に愛着を持ってもらえたら嬉しいです。